『ベッドに縛り付けるのが正解』ひろゆき氏のツイートは正論?神戸地裁判決、転倒事故で532万円の支払い命令

2022.12.12掲載
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皆さんこんにちは、大阪介護転職ネットです!

 

今回は令和4年の11月1日に出された、神戸地裁のある判決についてお話したいと思います。

その判決とは、「87歳の認知症の患者が病院内で歩いて転倒したので、病院は532万円支払え」と、その患者が転倒し怪我を負った責任は運営する県側にあるとされた事例です。

ひろゆき氏が「認知症患者はベッドに縛り付けて動けなくするのが正解ということですね」とツイートしたことで話題になりました。ひろゆき氏の言葉通りに受け取った方、判決に対しての皮肉と解釈をした方など、主に2つの考え方に分かれたようです。

施設や病院では(自宅などでも)転倒を100%完全に防ぐということは不可能なのですが、転倒事故などが起きた場合、法的責任を問われると運営側の責任が認められてしまうということが多々あります。今回は、自分がもしそのような立場に置かれたらどうするか、それとどう向き合い、どんな行動を取ればいいのか考えてみたいと思います。

 

 

 

まず、どのような事故だったのか確認しましょう。

『兵庫県立西宮病院で2016年に認知症患者の男性(当時87歳)が廊下で転倒して重い障害を負ったのは、看護師が転倒を防ぐ対応を怠ったためとして、男性の家族が兵庫県に約2575万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が1日、神戸地裁であった。高松宏之裁判長は「転倒する恐れが高いことは予見できた」などとして、約532万円の支払いを命じた。

 判決によると、男性は16年4月2日早朝、看護師に付き添われトイレに入った。看護師は男性が用を足す間に、別室患者に呼び出されて排便介助に対応。男性はその間にトイレを出て廊下を1人で歩き、転倒して外傷性くも膜下出血と頭蓋骨骨折のけがを負った。男性は2年後、心不全で亡くなった。

 男性の家族は、けがによる入院生活の継続で男性は完全な寝たきり状態となり、両手足の機能全廃になったと訴えていた。一方で県側は、別室患者は感染症を患っており、排便の介助を急いだことはやむを得ないなどと主張していた。

 高松裁判長は判決で、認知症の男性から目を離せば、勝手にトイレを出て転倒する可能性が高いことが「十分に予見できた」と認定した。また、男性の状態と、別室患者がおむつに排便すれば問題がなかった状況などを比べ「優先しなければならなかったとは認められない」と指摘。男性は事故で寝たきりとなり、認知症が進んで両手足の機能全廃に至ったと認めた。

 一方で、男性の年齢や、事故以前からの認知症も影響している点などを考慮し、損害金額を算出した。』

参照URL:神戸新聞NEXT

満額を認める判決ではなかったにしても、500万円を超える金額になりますと、こういった転倒が起きるたびにこのような賠償が認められては、施設や病院はやっていけないのではないかと感じます。

 

 

次に事故の対応を見てみましょう。

・16年4月2日の早朝に男性は、看護師に付き添われてトイレに入った。

・看護師は患者が用を足す間、別室の患者に呼び出されて排便介助に対応した。

・その間、患者はトイレを出て廊下を一人で歩いている時に転倒し、外傷性くも膜下出血と頭蓋骨骨折の怪我を負った。

・男性は2年後に心不全で亡くなった。

こういったケースでは、一人で複数の患者さんを見るということは、当然病院でも施設でもあると思います。人手不足で完璧にマンツーマンで対応するということは難しい現状があると思います。

 

県側の主張と判決内容を見てみましょう。

・県「別室患者は感染症を患っており、排便の介助を急いだことはやむを得ない」

・判決「認知症の男性から目を離せば、勝手にトイレを出て転倒する可能性が高いことが十分に予見できたと認定。

・また、男性の状態と、別室患者がオムツに排便すれば問題がなかった状況などを比べ「優先しなければならなかったとは認められない」と指摘。男性は事故で寝たきりとなり、認知症が進んで両手足の機能全廃に至ったと認めた。

この判決に関しては、当然だという意見がある一方、病院に厳しすぎるのではないか、こんなことがまかり通っては、誰も患者さんや入居者さんを病院や介護事業所などで見ることができなくなってしまうし、あまりに一方的であるという意見も多くあります。

 

 

判決に対する批判が多いわけですが、一度冷静に裁判所はどのようなメカニズムでこのような判決を下しているのか、というところをおさらいしてみましょう。

損害賠償の要件には4つあります。4つを順番に検討し、全て満たす場合に賠償義務が認められるということになります。ひとつでも欠けていれば義務はないという考え方です。

損害賠償の「要件」

  • 事実
  • 結果(損害)
  • 因果関係
  • 過失(評価)

 

今回のケースで言えば、

  • 事実:男性患者さんが廊下を歩いていて転倒した、
  • 結果:そして、頭蓋骨骨折といった怪我を負った、
  • 因果関係:そして亡くなった。

 

因果関係までは認められるということですが、争点は④の過失ですね。これを裁判所が評価するということになっているのがポイントと言いますか、すべての原因とも考えられると思います。

過失があったかどうか、言い換えれば、現場の看護師さんがずっと付き添っているなどの転倒を防止するための措置を怠ったと言えるかどうか、というところを評価しているわけですが、これはさらに2つの要素で構成されています。

 

裁判上最も争点になりやすい要件は「過失」です。

これを分解すると↓

  • 結果を予見する可能性と義務
  • 結果を回避する可能性と義務

のふたつになり、

事故が具体的に予想でき、
・それを職員が注意すれば回避できたと言えるか否か、

で判断されます。

 

要するに、一人にしたら廊下に出てそして転んでしまうだろうな、といったことが予想できたかどうかということ、予想できたとしてそれを回避できたかどうかということですね。

 

今回のケースでは、「別室で感染症を患っている患者が排便をしたいと呼ばれた」ため、別室の患者さんを優先しましたが、排便介助を、転倒する可能性のある患者を放置してまで優先しなければならなかった」、とは認められず、認知症の男性の安全を取れば転倒という結果を回避することができたはずだという認定をしたわけです。

そのあたり、忙しくてそう言っていられない大変な状況だということを、施設や病院などの状況を裁判所は何も理解せず、理屈で進めていくので「転倒を防げた」と認定する傾向があると言えます。

 

「事故が具体的に予想できて、それを職員が注意すれば回避できた、と言えるか否か」だけで判断されるということです。

 

その上での議論に、「予見可能性」「結果回避義務」という言葉があり、それらは比例関係にあるということがあります。

 

具体例として、ふらついていて車椅子から落ちやすいなどのヒヤリハットが多い方は、それだけ転倒を防止する必要性が高いということですから、回避の努力をそれだけしなければならないという関係にあります。

 

ここで大前提にあるのが、身体拘束はできない、ということです。

そのあたりを裁判所は十分理解しているのだろうか、と疑ってしまうようなケースがずっと続いてきています。

 

 

大変似たようなケースで、令和元年11月14日の東京地裁判決というものがありますのでご紹介します。

老健での事故だったのですが、97歳の入所者さんのトイレ介助の対応をしている介護職の方が、別の入所者さんに対応しなければならない状況になり、その間97歳の入所者さんは転んでしまい、左大腿骨頸部を骨折してしまった、同じパターンです。

参照URL:東京地裁判決令和元年11月14日 介護施設での放置による転倒事故

 

この97歳の女性(Xさんとします)の状況は、

要介護4、転倒歴あり、日常生活動作はB2、認知症(Ⅲa)

・移乗動作、起き上がり、座位保持、立ち上がり及び立位保持に見守りを要する。

・移動手段は車いす、自操可

・排泄状況は、日中・夜間とも布パンツとパットを使用

・ズボンの上げ下げについてのみ介助を要する。

 

残存能力はあるが、それを生かすためにはリスクが伴うので、見守りが必要だという状況だったわけです。

 

介護職員(Bさんとします)が、入居者のXさんからトイレに行きたいという訴えがあったので、まず車椅子で居室隣にあるトイレに誘導しました。

そしてBさんは下着の上げ下ろしの介助を行った後、トイレの便座にXさんに座っていただいてトイレのドアの前で見守りを行っていましたが、排泄を終える前に他の入居者に対応するため、その場を離れました。これは別室のセンサーマットが鳴ったため、そこに駆けたからです。

そして戻ってみたらXさんがトイレのドアにもたれ、床に座り込むように転倒しているのを発見したという状況でした。

 

この結果は、3420万円の請求に対して、

後遺障害慰謝料として500万円、

傷害慰謝料として50万円

入院雑費等で2万2500円

弁護士費用がありますので、600万円超の損害額と認定されました。

 

このケースも結局過失があったかどうか、そしてそれは予見可能であって回避できたかどうかが観点でしたが、以下の認定でした。

 

『被告及びBには本件事故の発生についての予見可能性が認められるところ、本件事故の態様からすれば、入居者のXは、Bが同人の元を離れた際に、途中で排泄を諦めてトイレから出ようとして転倒し、本件傷害を負ったことがうかがわれるから、被告の職員が、相当時間Xの元を離れることなく同人の見守りを継続していれば、その発生を回避することが可能であったといえる。』

 

Xさんの元を離れることなく見守りを継続していれば、発生を回避することが可能だった、ずっと付き添っていればよかったじゃないか、というふうに言っているわけです。

離れたのにはちゃんと理由があり、やむを得ず離れたと主張しましたが、その間にはこういう事実があったじゃないかというふうに裁判所が言いました。

 

その事実とは、

「Bさん以外にも2名の介護職員が配置されていて、Bさんはその部屋に向かう途中、サブステーションにいた他の職員に、Xさんがトイレに座っていますと声をかけたが、見守りをお願いとまでは言わなかった、単に声を掛けるだけでなく、Bさんに変わってXさんのいるトイレに向かうよう依頼する、あるいはセンサーコールの対応を他の職員に依頼するなどすれば、相当時間Xさんの元を離れることなく見守りを継続できただろう」という内容です。それをしなかったっていうのは、結果回避義務違反だということです。

皆さんはこれをどう思われますか。

 

2つの事例の類似点は、一人で複数の入居者さんを対応していた、もう一人の方に向かわざるを得ない状況になった、病院のケースで言えば感染症の患者の排泄対応、そして老健のケースではセンサーマットが鳴り、入所者がベッドから転落しているかもしれないという状況です。緊急性があるものと判断したと言えるでしょう。

 

それらは、最終的には現場で咄嗟の判断で行動しているのであって、その行動の先で本当に何が起きているのか、そしてそこで起きていることの重大さや危険性というものは、秒ごとにどんどん移り変わっていくものですし、行動してみないとわからないという状況です。

 

しかし、それが裁判になると転倒直前と直後のところだけを切り抜いて、客観的に振り返ってみたらこれはできたはずでしょう、というふうに後付けで言われてしまいます。

予見可能性は、計画書やアセスメントに「ふらつきがある」とか「見守りが必要だ」というふうに書けば、認められてしまうのですが、もう一つの過失の要素である結果回避の可能性と義務については、裁判所は後付けで「できたじゃないか」というふうに攻めてくる傾向があるように思います。

 

裁判官も現場を知るべきだと声を大にして言いたいところですね。様々な意見、もっともな意見は多々ありますが、法的に言えば、認定のハードルというものをもう一度見直すことを、ぜひやってほしいですね。

 

具体的には、身体拘束はできないという大前提に基づき、その時でなければわからない情報、例えば、その時の人員体制やフォーメーション、慌てていたとか、気が回らなかったなど、介護士さんも看護師さんもその他職員さん、みんな人間です。

対応することにも限界があるということを加味した上で、結果回避の可能性や義務というものを認定していくようにしないと、結局全ての案件で「それでもあなた、あの時こうできたでしょう?」とか「他の職員に助けを求められましたよね?」というふうに、防ぎきれなかった事故を通り一遍に片付けられてしまう、結果ありきになってしまうのではないかと思うのです。

 

このままですと、介護施設や病院で働くのが怖いといった職員が増え、転倒のリスクの高い人は受け入れないといった施設が出てくるかもしれません。

 

個人的にはそのあたりの流れを変えていかなければならないのではないかと痛切に感じています。認定までの4つの要素と過失の構成要素の枠組みの中結果回避可能性の認定が結果ありき、結果論になってないかと、最高裁以下裁判所に、全老健や老施協、医師会などで、足並みを揃えて申し入れをしていくということが、これからやるべきことなのではないかと思っています。

 

 

また、今後もし仮に、同じような立場、同じような事故の当事者になってしまったらどうすればよいでしょうか。

過失があったという判決が出てしまうと、自分の施設、病院、自分自身はもうダメだと落ち込んでしまう気持ちになってしまうと思います。

ここで皆さんの頭の中に置いて頂きたいのは、「事故に関して施設や病院での現場のやり方が間違っていたのかどうか、現場のケアの良し悪し」と、「賠償義務があるかないか、法的責任があるかないか査定の問題」というものは、全く別の話だということを理解していただき、少しでも安心していただきたいです。

 

判決で高額な賠償義務が出たからといって、自分たちのしてきたことが間違っていたということにはなりませんし、たまたまその場面だけを切り取って評価したら賠償責任義務が生じたというだけです。歪な考え方と言っていいような中で出た一つの事例でしかありません。

 

皆さんご存知の通り日本は三審制ですから、控訴、あるいは最高裁まで行って判決がひっくり返る可能性も大いにあるわけです。たまたま、偶然が重なって出た結果に過ぎないのだということをぜひ理解していただきたいです。普段のケアの評価と賠償義務の有無、その判断というのは切り離して考える必要があるということです。

 

当事者の方が「みんなに迷惑かけてしまった」と、思いつめる必要は全くありませんし、なるようにしかならない世界だと割り切ってしまって良いと思います。決してペナルティなどではないのです。損害保険に加入しているはずですので、最終的には保険で全額をカバーできます。

 

今回出た判決はあくまで地裁レベルでのことです。これから控訴されればまた判決が変わる可能性があります。結果論の裁判が減ってくれることを願わずにはいられません。皆さんはどのように感じたでしょうか。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。それではまた!

 

 

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