なぜ特養が経営破綻に?背景にある制度と構造的な問題を解説【後編】

2025.06.09掲載
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こんにちは。大阪介護転職ネットです。

 

前回の記事では特別養護老人ホーム(特養)の倒産問題について、データをもとに解説しました。

今回は、特養の倒産が増加している背景について、詳しくお伝えします。

 

経営破綻や撤退が相次ぐ背景には、複数の要因が複雑に絡んでいます。主な原因を5つにまとめました。

 

介護報酬制度の制約と
人件費の高騰

特養の主な収入源は介護保険制度による「介護報酬」であり、報酬単価は国によって一律に定められています。

そのため、物価上昇や人件費の増加に柔軟に対応できず、収益構造が硬直化しています。


特に近年では、深刻な人材不足が続いており、介護職員の確保には採用コストや待遇改善のための支出が増加しています。

加えて、特養には「要介護者3人に対し介護職員1人」などの人員配置基準が義務付けられており、十分な人員が確保できなければ、新たな入居者を受け入れることすらできません。

実際に、人手不足が原因で空床が発生している施設も多数報告されています。

 

稼働率の低下と競争の激化

地域差はあるものの、高齢者人口の地域的偏在や競合施設の増加により、稼働率が90%を下回る特養も見られるようになっています。

かつては「入所待ちが当たり前」とされていた特養も、近年はサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)や有料老人ホームなど、民間施設の選択肢が増えたことで、必ずしも第一選択肢とは限らなくなりました。


厚生労働省の調査によると、2022年時点で特養は全国に約8,000施設あるのに対し、有料老人ホームは約28,000施設と、民間企業の参入が急速に進んでいます
(出典:厚生労働省「介護サービス施設・事業所調査」)。

民間施設は自社の裁量でサービス設計や営業活動を行える一方で、特養は制度上、広告や営業に一定の制約がある場合もあります。

そのため、特養にはこれまで以上に「選ばれる施設」であることが求められる時代になっていると言えるでしょう。

 

新型コロナウイルスの影響

新型コロナウイルス感染症の流行により、マスクや消毒液、防護具などの感染対策費用が増大したことも、経営を圧迫する一因となっています。

感染リスクを懸念し、家族が入所をためらうケースや、感染拡大防止のための受け入れ制限により利用控えが生じ、稼働率が低下した施設も多くあるでしょう。

さらに、感染収束後も光熱費や物価の高騰が続いており、食材費やオムツなどの消耗品費、給食費が年間で数百万円単位で増加しているとの報告もあります
(出典:全国老人福祉施設協議会・各種報道)

 

物価高騰と経営の限界

電気代・ガス代・水道代などの光熱費の上昇や、介護食・生活用品のコスト増も、特養の財政を圧迫しています。

とくに中小規模の施設では、これらのコストに対応しきれず赤字転落や廃業に追い込まれる例も増えています。


しかし、特養の財源である介護報酬は法律で定められているため、物価上昇分を自由に料金に転嫁することができません。

また、スタッフを削減してコストを抑えることにも限界があります。前述の通り、法定の人員配置基準を下回ると新規入居者の受け入れができず、売上が減少してしまうためです。

結果として「職員の給与を削る」ことでしのぐ施設もあり、それがさらなる人材離れにつながるという悪循環に陥っています。

 

中小法人の撤退と
大手の多角経営

さきほどの項目と重なりますが、大手の介護事業者は、医療や不動産など他の事業も手がけることで経営の安定を図っています。

大手企業と比較して、中小の法人は介護事業だけに頼っているため、コスト増や人手不足の影響を受けやすいでしょう。

また、都市部では利用者が多い反面、競争が激しく、経営には戦略や営業力、組織運営の工夫が必要です。

※1:全国老人福祉施設協議会(2023)『2022年度 特別養護老人ホームの経営実態調査』
※2:東京商工リサーチ(2023)『2023年 介護事業者の倒産動向』
※3:総務省統計局(2024)『令和6年版 高齢社会白書』
※4:厚生労働省(2022)『介護サービス施設・事業所調査』
※5:全国老人福祉施設協議会・各種報道(2023)

今回のまとめ

特別養護老人ホームは、介護保険制度を支える中核的な社会資源である一方、その経営は非常に厳しい現実に直面しています。

人件費や物価の上昇、競争環境の変化、制度的制約など、複数の要因が複雑に絡み合い「ニーズはあるのに成り立たない」という矛盾を抱えた構造となっています。

今後もこの構造的課題に対して、制度改革や経営支援、人材確保策など包括的なアプローチが求められるでしょう。

 

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